ふたりの娘。二匹のメス猫。そして発達障害気味の夫。帆の街での「ごく普通の家族」のごく普通の一日はきょうもボチボチと暮れていきます。

陪審員 その1

 今日、地方裁判所(District Court)に出頭してきました。裁判の被告になったわけではありません。陪審員候補として召集されたのです。日本では裁判員制度というのが始まったそうですが、私が暮らすこの国では陪審員制度があります。
 選挙人名簿(外国籍でも永住権があれば投票ができます)から無作為に抽出された人に「陪審員候補になったのでいついつにどこどこの裁判所に来るように」という召集令状(?)が来ます。正当な理由がないとこれを拒否することはできません。子供が小さいから、というのも「正当な」理由と認めてもらえません。ベビーシッターを雇ってその料金を国に請求できるからです。仕事があるからというのもダメ。雇用者は社員を陪審員に参加させる義務があるんですね。理由として認められてもらえるものの一番大きいのは「言葉」です。移民で構成されているこの国では、公用語である英語がちゃんと理解できない人も多いのです。私も丸9年この国に住んでいますが、夫が日本語を理解することもあって、英語はちっとも上達しておりません。「私は英語がまだ十分できないので、難しい法廷用語が分かるかどうか不安」と申請すればだいたいは免除してもらえるようです。
 私もこの手で過去3回免除してもらいました。20年ここに住んでいて一度しかお呼びがないという友人もいるのに、私は2年に一度ずつきっちり呼び出されています。「くじ運がいいのね」と言われましたが、あんまりうれしくないです。あまりに定期的に招集が来るので「無作為」とはいっても誰かが記録を見て「あ、こいつは前回免除してもらってから2年経ってるぞ」なんてやっているんじゃないか、と疑っちゃったんですね、私は。で、じゃあ、一度参加すればその後しばらくはお呼びがかからなくなるのでは、と期待して「行きます」と返事したのですが。
 さて、裁判所に行くと陪審員候補の人たちがたくさん集まっています。一度に100人くらいが招集されるようです。その中から、きょうは3件の裁判の陪審員、合計36名が選出されました。これも抽選で、福引のときに使うような木の箱をガラガラと回し、その中から参加者の名前が書かれた紙を係員が引いていきます。1件の裁判にそれぞれ30名をまず選びます。選ばれた人たちは裁判が開かれる法廷に行き、そこで最終的な12名を選ぶことになります。
 私はなんと審理期間が3週間という裁判の陪審員候補30名のひとりに選ばれてしまいました。3週間というのはかなり長期で、かなり重要な裁判なよう。もしかしたら殺人事件かも、と思ったらなんだか急に不安になってしまいました。もしも選ばれたらしっかりと審理を聞いて判断しなくてはいけないのに、私の英語力で大丈夫なんだろうか……? 係りの人に相談したら「陪審員に選ばれないかもしれないし、選ばれたら裁判官に相談しなさい」とあっさり言われてしまいました。
 結果から言うと殺人事件ではありませんでしたし、私は陪審員には選ばれませんでした。法廷に行くと、そこにはもう被告人や弁護士、検察側が着席していて、担当の人の裁判に関する説明があります。次に罪状が読み上げられて、被告人の罪状認否があり、それから陪審員の最終選出になります。ここでもランダムに30名の名前が一人ずつ読み上げられていき、名前を呼ばれた人は傍聴席から陪審員席へ移ります。その時に被告側弁護人あるいは検察側が「Challenge!」と言うとその人は陪審員にはなれません。これで検察側、弁護側双方が自分たちに有利になりそうな陪審員を選ぶことができるのですね。今回の裁判は被告が中国人だったせいか、アジア系の人は全員「Challenge!」と言われました。私の名前が呼ばれる前に12名が決まったのですが、私が呼ばれていてもやっぱり「Challenge!」と言われていたかもしれません。
 陪審員に選ばれなくてホッとしたと言うのが本音ですが、これで終わったわけではありません。きょう陪審員に選出されなかった人たちは、別の裁判の陪審員選出のためまた水曜日に裁判所に行かなくてはなりません。自分の名前が呼ばれるまでのあのドキドキはあんまり楽しいものではありませんでした。またあれを繰り返すのかと思うとちょっとユウウツ。でも短期間で終了する裁判なら陪審員をやってみてもいいかな、なんて気分にもなっています。
 何はともあれ、貴重な経験ではありました。