ふたりの娘。二匹のメス猫。そして発達障害気味の夫。帆の街での「ごく普通の家族」のごく普通の一日はきょうもボチボチと暮れていきます。

日本人の心の混乱

 警察による黒人射殺に端を発したロンドンの暴動。



 テレビニュースの映像のすごさには驚きを通り越して声も出ません。



 ケガをして呆然自失で動けないマレーシア人学生にバラバラと駆け寄る人々。



 介抱するのかと思いきや、無抵抗の学生から次々と持ち物を奪って逃げていきます。



 
    人間ってここまで残酷になれる生き物だったんだ



 ……と、変な感心をしているわたし。




 3月の地震と津波の大惨事の後も、自制心を失わず、被害者同士が助け合って秩序正しい生活を維持してきた日本人を、海外のメディアはこぞって賞賛しました。



 混乱に乗じた犯罪も(まったくゼロではなかったようですが)少なかったと聞きます。



 テレビでロンドンの暴動の様子を眺めながら「日本じゃ考えられない」とつぶやいたりしてしまいます。



 が、「日本人の心の混乱」はまた違った形をとって現われているのかもしれません。



 我が家では来年1月に日本に里帰りします。



 母の一周忌に出席するのが目的ですが、1月は子供たちも夏休みなので、少し長めに滞在して日本の冬を楽しんでこようと考えています。




 ところが、この予定を知り合い(日本人です)に話すと眉をしかめる人が多いのです。



  日本? 子供を連れていくって……? あなた、それで、いいの?



 それでいいの、って、何が?



 どうも、「放射能で汚染された日本」へ子供を連れていくのはどうか、ということのようです。




長生きしたってあと20年か30年の親はいいのよ。でも、子供には将来があるのよ。それを危険にさらすのは、親として無責任じゃないの?




 驚いたことに(だって、私はそんなこと、考えてもいなかったので)、これは決して少数意見ではないみたい。


 

 息子が日本の大学に進学したいと言っているが止めさせた、とか
 家族での日本への里帰りは当分控える、とか
 友人の結婚式に招待されたが、日本へは自分だけ行って子供は連れて行か ない、とか




 いやいや、聞いてみると、出るわ出るわ「日本は怖い」節。




 30年か40年後には日本は放射性の癌や白血病の人間で溢れかえっていそうだ。




       みんな、本気で、ホントに、マジで、そう思ってるの?
   それって、いま、日本を離れることができず、日本を離れることを
       せず、日本で暮らしている人たちに失礼じゃない?



 そんな時、目に入った「京都の送り火に被災薪使用」問題騒ぎの新聞記事。




 薪の使用を止めた京都市当局を責めるのは酷なような気がする。




 だって、もし使っていたら、「放射能を空中に撒き散らした」と叩かれることになるのは目に見えているもの。





 陸前高田市の市長はひじょうにおかんむりのようだけど、同じ自治体の首長として京都市長の苦しい立場、理解してやってもいいのになぁ、なんて思ったりするのです。




 先日見た映画『黄色い星の子供たち』のなかで、収容所を脱走した主人公の少年は一緒に逃げてきた友人と墓地で夜を明かします。そのとき、少年が友人に「(幽霊が)怖いか?」と訊くのですね。そして続けて「怖いのは死んだ人間じゃない。生きている人間だ」というんです。





そう、怖いのは人間。もしかしたら、空中に漂っている放射能汚染物質とやらよりず〜っと恐ろしいのかもしれないよ。




 京都市の騒ぎについては新聞(それも朝日新聞だけだけど)をざっと読んだだけですが、福島在住の作家で僧侶の玄侑宗久さんが言った「日本人の心の混乱が出た」という言葉が心に残りました。




 まぁ、そんなわけで、まわりの心配をよそに、我が家は1月に日本へ行きます。




         日本の皆さん、遊んでね。