ふたりの娘。二匹のメス猫。そして発達障害気味の夫。帆の街での「ごく普通の家族」のごく普通の一日はきょうもボチボチと暮れていきます。

オークション初体験

 お隣のライアンが家を売りに出しました。
 一人息子のリアムがそろそろ小学校に上がる歳になって、いい学校のある場所に引っ越すことに決めたようです。子供の学校のために家を売って引っ越すというのは、ニュージーランドでは珍しいことではありません。
 週末に何回かオープンハウスが開催され、今日はライアンの家で午後にオークションが行われるというので、JBといっしょに行ってみました。
 ニュージーランドで家を売買する場合は、売り手と買い手が1対1で値段交渉をするというのはあまり一般的ではないようです。売り手が希望価格を提示し、何人かの購入希望者がその金額を参考にして「この値段で買いたい」という金額を示して、その中で一番高値をつけた人が売り手との交渉権を手に入れる入札や、今回のライアンの家のようなオークション(競りですね)が多いようです。オークションは仲介に入った不動産業者のオフィスで行なわれる場合もあります。
 オークションに行ってみると、会場のライアンの家の居間にはかなりの人が。競りが活発になればそれだけ金額も上がるので、隣人ライアンのためにもたくさん人が来てくれているのはうれしいことです。
 オークションを執り行うのは、仲介の不動産屋の担当者(エージェント)ではなく「オークショナー」と呼ばれる人。黒のスーツを着た男性でした。
 まず、オークションを始める前にオークショナーがいろいろと説明します。すべては聞き取れなかったのですが、このオークションは何々という法律に沿って合法に行なわれるものだ、というような型どおりの説明と、「この家はいい物件で、お買い得ですよ」みたいなコマーシャルとが混ざっていたみたい。
 さて、オークションは50万ドルから始まりました。会場にはかなりの人がいたのに、実際に競りに参加したのは3組のみ。私たちを含めて大部分が「見物人」でした。と、70万ドル台になったところで、突然もう一組の家族が競りに加わって4組の戦いに。そのころになると、初めのうちは5万ドルずつ上がっていた金額も次第に小幅になってきます。
 75万ドルになったところでオークションはいったん中断、オークショナーと不動産業者が奥の部屋で待機していたライアンたちのところへ行きなにやら相談。家を売りに出している人には、落札金額がいくらでも売ってしまいたいという人と、一定の金額に到達しなかった場合は売るのを中止するという人とがあります。オークションの進行状況を説明してライアンたちの考えを確認しにいったようです。
 その結果、金額にかかわらず今日のオークションで一番の高値をつけた人に売ると決定されて、オークション再開。まず、外のベランダから競りに参加していた人が撤退し、次に私たちの向かいにいた家族もあきらめ、最終的に二組の競り合いになり、76万ドル台後半で落札されました。
 JBがオークショナーに確認したところ、落札金額にはGST(日本の消費税にあたる税金。税率なんと15%!)と仲介料金とがすべて含まれているそうで、売主のライアンの手に渡るのはそれほど多い金額ではないように感じました。
 

不動産売買の仲介をするエージェントは、不動産会社の看板は背負ってますが、実質的には一匹狼のフリーランスのような立場にあるようです。仲介手数料の大部分は不動産会社ではなく担当したエージェント本人に渡るとも聞いています。クライアントの数が多ければ多いほど、扱った不動産の売却価格が高ければ高いほど、エージェントの収入は多くなります。ライアンの家を担当したリンディさんも、ふだんから担当地区の家々に名前と顔写真の入ったメモパッドやキャンディ、チョコレートなどを頻繁に配ったりして、クライアント獲得に余念がありません。でも、なかなかのやり手エージェントのようで、乗ってきた車はかなりの高級車でしたよ(どうでもいいことですが)。

 オークションが終わって帰ろうとして、ふとライアンの家から我が家の屋根を見たら、まぁ、その汚いこと……。オークションに来ていた人たちは私たちが隣人だとは気づいていないようでしたが、なんだか恥ずかしくなって、そそくさと帰りました。