ふたりの娘。二匹のメス猫。そして発達障害気味の夫。帆の街での「ごく普通の家族」のごく普通の一日はきょうもボチボチと暮れていきます。

The King's Speech

 日本でも話題の映画『The King's Speech(英国王のスピーチ)』、観てきましたよ〜。


 上映が終わった後に映画館の観客が立ち上がって拍手した……なんて話も聞いていたので、どんなにすばらしい映画かと目いっぱい期待していきました。


  コリン・ファースが演じる主人公のジョージ6世は現女王エリザベス2世のお父さん。ジョージ5世が父親でエドワード8世はお兄さんになります。


 このジョージ6世は(映画の前半ではプリンス・オブ・ヨークで愛称はバーティ)、明るく社交的な兄デイビッド(後のエドワード8世)の存在のおかげで影が薄く、父王や王妃である母親にもあまり愛されない可愛そうな子供だったようです。吃音(どもり)のくせがあるのですが、これも精神的なことが原因だったみたい。

 



父王ジョージ5世がなくなりエドワード8世が即位しますが、当時エドワード8世にはアメリカ人のシンプソン夫人という恋人がいて、結婚したいと考えていました。



 ところがこの恋愛、下世話な言い方をすれば「不倫」。



 「シンプソン夫人」と言う名のとおり彼女はシンプソン氏の奥さんだったのですね(すでに結婚生活はかたちだけのものになっていたんだろうとは思いますが)。シンプソン夫人はエドワード8世と結婚するために離婚しますが、これは彼女にとって2度目の離婚。



 英国王は国王であると同時に英国国教会(アングリカン・チャーチ)のトップに立つ存在。



 2度の離婚暦がある女性との結婚など絶対に認められないと政府も教会も反対します。



 王位か恋人かの選択を迫られたエドワード8世は即位して1年もたたずに退位することを決意します。



 これは「王冠を賭けた恋」と言われて当時の日本でもずいぶんと話題になったと母が以前話していたことがあります。



 でも本当のところは、当時の(母を含めた)若い日本人女性が心に描いたであろうロマンチックなだけの物語ではなかったようです。



 時代は1930年代後半。ヨーロッパではナチスドイツが勢力を広げつつあり、イギリスにも戦争の足音が近づいてきていました。



 そういうメンドクサイ時代に国王なんていうメンドクサイ地位に着くの、メンドクサイよね、とエドワード8世は考えたんじゃないのか、なんて勘ぐっちゃいます。



 シンプソン夫人その人もあまり評判のいい女性ではなかったようで、この映画でもアメリカ人が見たら気分を害するんじゃないかと思うくらい下品で高飛車ないやらしい女性になっていました。




 ジョージ6世の妻エリザベスが、気弱な夫を支え励まし、気品を保ちながらも偉ぶったところがなく、気さくでウィットに富んだ魅力的な女性として描かれているのと対照的。




 本物のエリザベス王妃(エリザベス2世の時代になってからはクイーン・マザーと呼ばれました)も英国では娘のエリザベス2世に劣らないほど人気が高かった方で、2002年に101歳で亡くなっています。



 さて、エドワード8世の突然の退位で貧乏くじを引いてしまったのが弟のバーティ。



 気は弱いわ、病弱だわ、どもる癖はあるわ、で「国王になりたくない」と本当に泣いて嫌がったんだそうな。




 妻の励ましとオーストラリア人のスピーチセラピストとの友情に支えられて、ジョージ6世が英国王という重〜い重〜い責務をなんとか背負って行こうと歩み出すあたりまでがこの映画で語られています。




 映画の最後は、イギリスがナチスドイツに戦線布告したことをラジオを通じて国民に伝えるジョージ6世のスピーチ。




 戦争を回避しようとさまざまな努力をしたが叶わなかったと語り、皆で手を取り合っていこうと国民に協力を呼びかけます。



 このスピーチ、まだ吃音が完全に矯正されていない状況で行なわれたということで、言葉をひとつひとつ、搾り出すように発音し、語りかけるコリン・ファースの表情が、すばらしい。



 なぜか知らず目頭が熱くなっていました。




 さすがに映画が終わった後に拍手する人はいませんでしたが
 拍手したという人の気持ちが分かるような気がします。
 


 
 当時あのスピーチを聞いたイギリスの人々は絶対感動しただろうなぁ、と思うのです。



 ヒトラーの演説の様子をニュース映像で見ていたジョージ6世が「うまいなぁ」と言うシーンがあるのですが





 こぶしを振り上げ、体全体で表現しながら、まるで怒鳴りつけるように聴衆を鼓舞するヒトラーの演説と



 静かに一つ一つの言葉を噛みしめるように語りかけるジョージ6世の演説と




            見事な対比でした。