ふたりの娘。二匹のメス猫。そして発達障害気味の夫。帆の街での「ごく普通の家族」のごく普通の一日はきょうもボチボチと暮れていきます。

Sarah's Key

 友だちと映画を観てきました。




 フランス映画の『Sarah's Key』(邦題は『サラの鍵』)




 第二次世界大戦中、ナチスドイツ占領下のパリで起こったユダヤ人迫害事件を扱ったものです。




 主演はクリスティン・スコット・トーマスというフランス語がとっても上手なイギリス人女優(この人が『ミスター・ビーン』のローワン・アトキンソンと一緒に主演した『Keeping Mum』というブラックコメディがすっごくおもしろくておススメです)。




 今回はフランス人と結婚してフランスに住むアメリカ人ジャーナリストのジュリアという役。




 ジュリアは仕事で「The Vélodrome d’hiver roundup」の記事を書くことになり、取材を始めます。




 roundupというのは「一斉検挙」という意味の英語。




 1942年7月にパリで行なわれたユダヤ人の一斉検挙のことです。





 約14000人のユダヤ人がいっせいに検挙され市内のThe Vélodrome d’hiver という室内自転車競技上に収容されました。トイレも使わせてもらえず水も食べ物もほとんど与えられないまま(しかも真夏!)劣悪な環境下で数日を過ごした後にパリ郊外のキャンプに移され、その後ユダヤ人たちは次々にアウシュビッツなどに移送されていき、生きて帰ってこられたのはほんの数百人だったそうです。




 この事件を取材するうち、ジュリアの夫の家族と、このユダヤ人狩りで両親と幼い弟を失った少女Sarah(サラ、英語の発音ではセーラですが)との不思議なつながりが次第に明らかになっていきます。





 この物語で意外だったのは
1.このユダヤ人狩りを実行したのがドイツ軍ではなく、フランス政府の命を受けたフランス警察であったこと。

2.この事件については当事者も目撃者も多くを語らず、学校で教えることもなかったので、1995年に当時のシラク大統領が正式に謝罪して初めて知ったという若者が大多数であるということ。映画の中でも、ジュリアと一緒に取材する若いスタッフはこの事件について何も知らず、ユダヤ人が一時収容された競技場(取り壊されて現在はない)の名前のスペルも知らないというシーンがありました。


 
 実はわたしもこの事件についてはまったく無知でした。シラク大統領が何かについて謝罪した、というのは知っていたんですけど……



 何を謝ったのかなぁー程度の関心でしたので。



 題材が題材なので、しっかりハンカチを用意して出かけたのですが、結果としてはそれほど泣きませんでした。




 悲しい映画ではありました、確かに。



 
 生き残ったサラも心に深い傷を負ってしまったし、




 サラの悲劇をはからずも目撃してしまったジュリアの夫の家族も、一生忘れることのできない重い荷物を負ってしまうことになったのです。




 でも、なんといったら言いのかなぁ……きれいな映画でした、とっても。




 悲惨な内容なのに、残酷なシーンはなく、登場する人たちはみんな心優しい人たちばかり。




 サラの脱走を見逃してくれるフランス人の若い警官も
 面倒に巻き込まれたくないと言いつつサラを匿ってくれる老夫婦も
 そしてサラたちが住んでいたアパートに何も知らずに移り住んだジュリアの夫のお父さんたちの家族も



 みんな悲しそうな顔をした優しい人たちでした。




 わたしが泣いたのは最後の場面。




 サラの息子は、ジュリアの取材によって、知らされていなかった(知りたくなかった)母の秘密を知ることになり、ジュリアに腹を立てて追い返します。



 そして2年後。



 夫の反対を押し切り二人目の娘を産んだジュリアは夫と別れてアメリカで暮らしています。



 そこへサラの息子が訪ねてきて、ジュリアに謝罪と感謝を述べます。



 あなたのおかげですべてを息子に打ち明けることができた父は心安らかに死んでいったと。




 そしてふと、無邪気に遊ぶジュリアの娘の名前を尋ねるのです。





 しばらくためらった後にジュリアが口にした名前は

 

           サラ



 とたんにサラの息子が男泣きし、わたしも涙がボロボロ。
  



 悲しい映画だったけど、観終わった気分はとてもさわやか。




 『Never Let Me Go』のように救いようのない重苦しさはありません。




 歴史の勉強にもなったし、とってもいい映画でした。